2000年には75歳以上の後期高齢者1人に対して現役世代(15〜64歳)9.6人であったのが、2025年には3.3人になります。このような超高齢化社会を迎えている現在、平均寿命が男性で82歳、女性で88歳と長生きするようになってきておりますが、健康寿命(健康寿命=健康面で支障がなく日常生活を送れる期間)は男性で72歳、女性で74歳であり、平均寿命との差が10年以上離れているのが現状です。
また65歳以上で男女別にみた介護が必要となった主な原因は、男性では脳血管疾患が27%、認知症が17%、転倒骨折が第3番目に挙げられ、女性では認知症が18%、そして転倒骨折が第2位で16%まで達しております。これに伴なって運動器機能不全症候群であるロコモティブシンドロームの患者さんは4700万人と推定されており、変形性腰椎症:3,790万人、変形性膝関節症:2,530万人、骨粗鬆症:1,280万人と言われております。
運動器の中でも脊椎脊髄疾患は生活の質(Quality of Life)を著しく低下させ健康寿命を制限する一つの重要な要因となっています。これに伴う機能障害を回避するために尽力することは、我々運動器を扱う医師にとっての最大の責務であると認識しております。
このような背景から、私たち名古屋大学整形外科の脊椎脊髄グループが中心となって、特定非営利活動法人(NPO法人)名古屋脊椎グループ(Nagoya
Spine Group : NSG)を設立させていただきました。このNSGを設立させて頂いたのは2006年に遡ります。その当時名古屋大学整形外科脊椎班のチーフでありました私と現在中部ろうさい病院院長の加藤文彦先生、そして名古屋第二赤十字病院院長の佐藤公治先生の多大な協力のもとに立ち上がりました。いかに多く若手医師の情熱を滾らせ、研究に没頭させ、そしてそれを世界へ発信させるか、またこの結果を患者さんにいかに還元するか、を常に目的として活動をして参りました。
本NPO法人は、脊椎脊髄疾患医療に携わる医師並びに医療関係者または脊椎脊髄疾患医療に関心のある一般市民の方々に、脊椎脊髄疾患に関わる診断や治療についての基礎医学研究、臨床医学研究及び大規模疫学研究から得られた知識を提供することを第一の目的としております。
この目的のために、もう一つの重要な活動のひとつとして、脊椎脊髄外科の専門医、さらには指導医を養成するための教育や援助を行います。
幅広い知識や的確な診断を下せる能力を身につけるための教育の機会や、多様となっている手術に対し手術技術だけでなくこれに伴う安全性対策を実施できる能力を習得するトレーニングの機会を提供することがその活動の柱となります。
また脊椎脊髄疾患に対する医療の質をあげるには臨床研究も不可欠です。NSGではエビデンスレベルの高い、公平性の保たれた結論を導き出せる多施設臨床研究を推進し、この結果を患者さんへ還元し、また同時に若手医師の研究マインド構築を目指します。
多種多様な情報が様々なメディアを通じて簡単に得られる社会状況を鑑みると、脊椎脊髄疾患に携わる現場の医療人から正しい情報を提供することが必要です。これは主に市民公開講座事業を通じて行います。
NPO法人名古屋脊椎グループの設立の趣旨にできるだけ多くの方々にご賛同いただき、長きにわたりご支援を賜りますようお願い申し上げます。